池田信夫

従来の安全論争では、炉心溶融が起こるかどうかに大部分の労力がさかれ、それが起こったときは原子炉が全壊して大量の放射性物質が周辺数十キロメートルに飛散して数万人の死者が出ることは必然だと思われていた。しかし今回の事故では、炉心は完全に溶融していたが、圧力容器は破壊されず、格納容器もほぼ無事だった。つまり今回の事故では、次の二つの神話が崩壊したのである。 安全神話:最悪の事態でも炉心溶融は起こらない 危険神話:炉心溶融が起こると数万人が死ぬ このうち後者はあまり気づかれないが、不幸な出来事の多かった中で唯一のグッドニュースである。放射能の健康被害は、従来の想定よりもはるかに小さかったのだ。だから30キロ圏内を避難させた政府の計画避難区域は過大であり、農産物などの出荷規制も不要だった。このような過剰規制によって11万人の人々が10ヶ月以上にわたって避難生活を余儀なくされ、農業に多大な被害が出て、その賠償で東電の経営が破綻することが懸念されている。